2025-08-12

ひと口で、世界も未来も変えてしまうトマト ラ・ルーパ。

イタリア・ラツィオ州、ボルセーナ湖を見下ろす火山灰土壌が広がる場所に、元映画監督ジョナサン・ノシターが2016年に立ち上げたのが、ファットリア ラ ルーパ(Orto Vulcanico La Lupa)です。

彼は固定種トマトを中心に、世界各地から古来種の種子を集め守り育て、祖先伝来の種の復活や生物多様性の回復という、ナチュラルや有機という言葉ではくくりきれない再生型農業モデルの実践に挑戦しています。

lupaとはメスの狼のこと。銀髪の彼の風貌が狼っぽいのかな?でも男子だし…と思ったら地名でした。

約1haほどの小さな畑は、地形や土壌の違いから11の区画に分けられ、400を超えるトマト品種をはじめ、約1,400種類もの古来種作物が共生する驚異的な場所です。

ジョナサン・ノシターと世界中から集めたトマトの固定品種

自然交配を避けるため、品種ごとに手作業で受粉を行うほか、近隣の板金職人に特注した湯煎器を使い、85℃以下で穏やかに加熱し、限りなく生に近い形で瓶詰めします。塩や調味料は一切加えず、ヴィンテージごとに異なる風味と濃度(時に濃厚だったり、水のようにさらさらだったり)をそのまま閉じ込めたラ・ルーパのトマト瓶は、まさに「一期一会」。長年付き合いのあるナチュラルワイン生産者たちと同じ哲学で農産物に向き合っています。

このプロジェクトは、まさにジョナサンの映画観とリンクしています。

映画『モンドヴィーノ』や『Resistenza Naturale』で培った地域性・個性・人間との対話への温かな視点が、いまは農業というフィールドで、「ありのままのテロワール」をトマト瓶に映し出す情熱のなかに活かされています。
*2005年公開の映画『モンドヴィーノ』の情報やあらすじは映画.comでご覧いただけます。

“元”映画監督というのは、輸入元ヴィナイオータの太田社長が今年ラ・ルーパを訪れた際、ジョナサンが「もう映画は撮らない!」と断言していたからだそう。

個人的には、彼の次の作品も今年のトマトの味わいと同じくらい楽しみな気もしますが…。

さて、気になるプロダクトですが――。
ひとつひとつの瓶には、トマトを裏ごししたパッサータと皮をむいたホールトマトの両方が入っていて、果実本来の風味や栄養価を保ちながら最大限に引き出しています。

早速、「チェント スコッケ」種でパスタを作ってみました。
「ソレントからナポリ南部で育てられてきた、ナツメのような形をした小粒の品種で、“100個の実”を意味する名前の通り、巨大な房状に実をつける寛大な品種。ジューシーでバランスが良く、甘いがくどくないソースができ、余韻のフレッシュさとミネラル感も特徴的」と、ヴィナイオータさんのサイトにあります。

トマトの味をストレートに感じられるよう、ソースには一切塩を加えず、パスタを茹でる湯に控えめに塩をするにとどめ、オリーブオイルだけで仕上げました。

ごく控えめに言っても、これはもう衝撃の味。撮影に集中するパパろばを「ちょっと、今すぐこの出来立てをひと口食べたほうがいいよ!」と遮ってしまったほどです。

正直、これまでイタリアでも日本でも食べたどんなパスタよりも鮮烈でした。

香りの強さ、加熱してなお失われない、畑からもぎ取ったままのような瑞々しさ――。

8年以上イタリアに暮らしていれば、感動に値する美味しいパスタには何度も出会いってきましたが、このパスタの「美味しさ」はそれらとは質が異なります。ひと口ごとに記憶や概念が書き換えられていく…そんな感覚です。

「世界一美味しい」とは言いません。でも、これは人類にとって大切な何かを教えてくれる、未来を守る味だと強く思いました。

異なる品種を食べ比べてこそ、この瓶詰の本当の価値がわかります。同じトマトでも品種が違えば味わいがこれほどまで変わるのかと驚かれるはずです。ちなみにジョナサンは、同一品種でも畑の区画によって風味が変わると断言します。

日本でトマトの品種別の食べ比べだなんて考えられないですよね。そもそも、大玉品種だと桃太郎かサンマルツァーノくらいしか名前が出てきません。ジョナサンのところにだけでも400種類ものトマトが存在するというのに…。糖度以外の物差しでトマトの味を説明された記憶がないのは、なぜなのでしょう?トマト本来の個性というものは、どこに置き去りにされてしまったのでしょうか。

2024年は雨が多いため生産量が少なく、輸入量も昨年の半分ほどになったそうです。3〜4個しか分けてもらえなかった品種もあり、種類が多すぎてどれを選んでいいかわからない人もいるでしょう。そこで、品種の個性ができるだけはっきり異なるもの同士を組み合わせ、食べ比べしやすい3本セットを作りました。

また、この比類ないトマトの個性を最大限に味わっていただけるよう、試案と試食を繰り返し、おそらくこれが最良という食べ方にたどり着きました。もちろん、このトマトを最高の状態で味わっていただくためのパスタやパン、オリーブオイルも

「Travelling without moving with tomatoes 一皿のトマトで世界を旅する」というサブタイトルがついたpomodrissimiセット、ぜひ内容を読んでみてください。

明らかにパクリなサブタイトルですみません(笑)。究極のグルメ、最高級の希少品種トマト、三ツ星レストランシェフ御用達の瓶詰…そういったきらびやかな謳い文句とは無縁のジョナサン・ノシターの愉快なトマトたちを家で食べながら、世界へと、未来へと、旅するように思いを馳せていただけたら…そう思ってつけたタイトルですのでお許しを。

ラ・ルーパのPomodorissimiセットの詳細はこちらのページで。



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